2022/04/08

 12時に起きる。うす曇り。旅行へ行く夢をみる。古本屋に入ると爆音で音楽がかかっていて、店主がにこにこして近づいてきて耳元でなにかいうのだけれどあまりよくきこえない。近づくと、赤ワインとチーズケーキをすすめられた。私は何かの本を探していた、それは講談社文芸文庫で、夢のなかではおもいだせたのだけれど起きたら題名が思い出せなくなっていた。

 よく晴れていたので散歩しようとおもいたち、なんだかんだとやって14時に家を出る。電車に乗って吉祥寺に行く。途中乗り換えの駅で仏画の展示のポスターがあって、さいきんは仏教の波がきているので興味をひかれる。駒場東大前だからおそらく柳宗悦のところだろう。

 吉祥寺駅について井の頭公園に行き、ぶらぶらする。でかい犬やちいさい犬が散歩していた。桜があちこちで咲いていて、花びらが池におちて表面がいちめん真っ白になっているところもあった。ぐるぐると池の周りを歩きながら、大学生のときにいったカフェがあったけれどあそこにはどうやっていくのだろう・・・・・・とおもい探すがみつからない。あきらめかけたときにジブリ森美術館への通路がみつかり、それがその探していた道であり、カフェもちゃんとあった。おもっていたよりもこじんまりとしたところで、あそこに数年前すわっていたのだ、とおもうと不思議だった。

 そういえばジブリがすきなのにジブリ森美術館へいったことがなかったとおもい、入るわけではないけれどそこまで歩くことにする。とちゅうでテニスコートがいくつもあり、当たり前だがみながテニスをしていた。ランニングをする人にときどき追い越された。日本は平和。

 ジブリ森美術館に着く。事前にチケットを買わないといけないので行きそびれているのだなとおもいながらまわりを歩くとなんとなく建物がみえて、屋上にラピュタの、あの、名前なんていうの、ロボットがいた。それで満足して、その隣の公園に幾本も枝垂れ桜が生えていてうつくしく、みるべきほどのことはみつ、とおもい帰ろうとすると、ふと川が眼下に流れているのをみつけ、あ、これは玉川上水ですね、とおもい近寄ると玉川上水だった。

 太宰の短編に乞食学生というのがあり、私はそれがわりに好きで何度か読んでいるのだが、たしかあれは玉川上水に流れている人をみつけた「私」が溺れているものだとおもって救出しようとしたらそれは水浴びしている学生で、「私」は彼といっしょに井の頭公園の喫茶店に入る、みたいな話だった。そうか、じゃあここらへんで乞食学生を救出したのだなと頷いて、なんとなく玉川上水に沿って歩いていると、あれ、じゃあ太宰が入水したのもこの近くかとおもいつき、少し歩いた先にあった案内板をみたらもう少し歩くと入水した所だという。せっかくだからそこまで歩こう、それにしても入水自殺した所が観光名所になるのもなんだかな、とおもいながら川を眺めながら歩いた。隣に流れているらしいのだけれど、柵の向こうは緑が鬱蒼としていて川面がなかなか見えない。はて、とおもいながらしばらく歩くと川の継ぎ目、なんていうんだろう、流れが段になっている所があり、緑がひらけて川面が覗いた。乞食学生には、玉川上水は流れが速くて底が深いので人食い川と呼ばれているとか書いてあった気がするけど、どうみても人が溺死する川ではない。やはり時間とともに変わったのだろうか、と考えながらなおも歩いていると、流れが終わり、三鷹駅についてしまった。どこで入水したのかわからなかったが、わざわざ探すのも趣味が悪いようにおもわれたので駅のほうへ進み、あ、陸橋とまたおもいついた。太宰が黒マントで立ってた陸橋、あれ三鷹じゃない? とおもって調べると少し歩いたところだった。なんか聖地巡礼みたいになってるなとおもいながらそこにも行った。
 しばらく歩くと古びた陸橋がかかっており、これがあの、とちょっと感動しながら昇ると上には数人の人がいて、え、太宰ファン? 常にこんなにいるの? とおもいながら近寄ると、人々はカメラを手にもち、じっと線路の先をみつめていた。鉄っちゃんだった。どっちにしてもすごいけど。薄い雲の向こうに夕陽がぼんやりと滲んでいた。
 また駅に戻る。三鷹駅は高校のころよく行っていたので懐かしい、懐かしいとおもいながらロータリーへつづくエスカレーターを昇り、駅前の本屋などに入り、おなかがすいたので目についたマクドナルドにはいった。マクドナルドなんて年に数回入るかどうか、とりあえずハンバーガーとナゲットとコーヒーを注文して食べた。おもったよりおいしかったので驚いた。マクドナルドに嫌な思い出でもあったのか。

 出て、せっかくだから古本屋に行こうとおもい調べると、水中書店という店があったので行った。よかった。『夜想 山尾悠子』島田潤一郎『あしたから出版社』山岸凉子『わたしの人形は良い人形』原作:津原泰水、画:近藤ようこの漫画『五色の舟』を買った。店内に良い感じのヒップホップが流れていたせいか買うハードルがいつもより幾段か低くなっていた。置いてある本も内装も音楽も店員さんの感じもすべてよかった。近かったら通っていただろう。

 駅前のドトールに入ってアイスティーを頼んで本を開いてしばらく集中して読んだ。そのときふと、生きててよかったな、とおもった。いやほんとうのことをいえばそのときおもったことは忘れてしまったのだけれど、ざっくり言うとそういうことをおもったはずだった。死ななくてよかった。本が買えて読めてよかった。そんな綺麗なことをおもったのだったか。

 出て、吉祥寺までまた歩いた。すぐに着いた。飲み屋の看板がギンギンに光っているなかを抜けてまた井の頭公園にいった。足元がぼんやりと照らされている橋を渡ると、池の水面にマンションの明かりや月が映っているのが視界いちめんに広がっていた。カップルがたくさんイチャイチャしていた。個人的に子どもをつくらないと決めているが、これだけたくさんカップルがイチャイチャしていると私の決意などどうでもいいようにおもわれた。とにかくみんなたのしそうに笑っていて、よかったとおもった。その後ベンチに座ってしばらくぼうっとしてから帰った。ここらへんに引っ越したら毎日公園へ通えるなと一瞬おもったが、駅へ帰る途中で酔っ払った女性数人がすぐ後ろで「良い日旅立ち」を大声で歌いだしたのでやっぱやめようとおもった。